ロゴ大阪大学大学院工学研究科テクノアリーナ最先端研究拠点部門

フューチャー・デザイン革新拠点

大阪大学大学院工学研究科テクノアリーナ最先端研究拠点 フューチャー・デザイン革新拠点部門
  成果等  実践実例
実践実例
Future Design Practices

 大阪大学を中心とした当研究チームは、フューチャー・デザインの初実践(岩手県矢巾町との連携により2015年度に実施)をはじめ、フューチャー・デザイン研究・教育および社会実践をこれまで先導してきました。本サイトでは、自治体や政府、産業界や教育機関におけるフューチャー・デザインに関する「36の実践事例」を紹介します。これらには、政府機関、自治体、産業界、研究機関など多様な主体が「連携」して取り組む新たなフューチャー・デザインの実践を含みます。フューチャー・デザイン実践の課題領域については、都市計画、観光資源政策、公共施設管理、再生可能エネルギー政策、カーボンニュートラル政策、環境計画、教育プログラム、水道インフラ維持管理、産業界の研究開発戦略、事業戦略、技術アセスメントなど、多岐にわたります。当研究拠点で進めるフューチャー・デザイン研究・教育および実践についてはこちらの動画も御覧ください。
 フューチャー・デザインは、2012年に大阪大学に設置された研究会「七世代ビジョンプロジェクト」において、参加メンバーらによって、そのコンセプトの提起と研究構想が始まりました。その後、内外で様々な研究および社会実践が進められてきました(詳細については、こちらのインタビュー記事も御覧ください)。これまで公共政策分野産業分野などで、フューチャー・デザインの実践が進んでおり、本サイトでも代表的な実践をリストしています。特に、現世代と将来世代の双方の利益や幸福を考慮し、持続可能な意思決定を導く上での有効性が示されてきた「仮想将来世代」を導入した代表的な実践事例を本サイトで紹介します(議論テーマ、実施の主体、参考文献を記載しています。実践事例は随時アップデートします)。なお、これらには、研究拠点の設置前にメンバーが携わった事例や、他大学・研究機関と共に実施した事例も含みます。
 こちらのサイトでは、これまでの研究・実践に基づいて、フューチャー・デザイン実践の基本ステップを簡潔に記載して公開しています。大阪大学のフューチャー・デザイン研究チームでは、フューチャー・デザイン実践の詳細の方法論やステップについてマニュアル化を進めるのではなく、実践者と研究者とが協働した状況において個々の課題に応じた手法を導出するため、共同研究の位置づけで実践を進めてきました。このことは、新たな学問領域であるフューチャー・デザインの学術的な知見の積み上げという意味でも重要と考えています。フューチャー・デザイン実践や共同研究のご希望があればご相談ください。

公共政策分野・参加型意思決定に関する実践事例

Case:01 > 2060年を見据えた地方創成プラン・まちづくり施策の提案 (初のフューチャー・デザイン実践)  【矢巾町】
Case:02 > 2050年に向けた公共施設管理・町営住宅の計画 【矢巾町】
Case:03 > 再生可能エネルギーの導入ビジョン【吹田市】
Case:04 > 働き方改革・業務改善施策の検討【経産省】
Case:05 > 市民と行政職員による環境基本計画への  政策提案【吹田市】
Case:06 > カーボンニュートラルに向けた政策デザイン【京都市】
Case:07 > 水道インフラの持続可能な維持管理の計画と評価【吹田市】
Case:08 > 再エネ技術普及のシナリオ評価とカーボンニュートラル政策のデザイン【吹田市】
Case:09 > 行政計画(都市計画マスタープラン)の  アセスメント【矢巾町】
Case:10 >産学官ステークホルダーによるエネルギー・ 地球温暖化対策の議論【政府機関、自治体、企業】
Case:11 > 水環境問題に関する対策の検討【ベトナム・ホーチミン市】
Case:12 >カーボンニュートラル・防災の統合的施策と 自治体間広域連携の検討【西宮市・尼崎市・豊中市・吹田市・政府機関】
Case:13 > 気候変動適応策・緩和策とレジリエントな都市計画の提案【水戸市】
Case:14 >高校生・大学生らが持続可能な未来と環境政策を提案【兵庫県】
Case:15 >政府機関・自治体・公的機関・研究機関・産業界メンバー連携によるカーボンニュートラルに向けた政策提言【産学官関係機関】
Case:16 >住民参加による地域・観光資源の評価と政策デザイン【矢巾町】
Case:17>大学生と社会人(企業関係者)による気候変動対策のアクションプラン【滋賀県】
Case:18 >健康的で気候変動に対して強靭な都市を構想するためのフューチャー・デザイン【ドイツ・ハンブルグ市】
Case:19 >大学経営・企画を支える人材育成のためのフューチャー・デザイン 【大阪大学】
Case:20>

━━ Case:01

2060年を見据えた地方創成プラン・まちづくり施策の検討

岩手県矢巾町/2015年度

 本事例は、フューチャー・デザインの主要な方法である「仮想将来世代」を初めて実社会の意思決定に応用した実践例です。2012年からのフューチャー・デザインの構想以来、仮想将来世代の方法論開拓を進めていた大阪大学環境イノベーションデザインセンター(当時)と矢巾町との連携協定の下、原 圭史郎教授らの研究グループがJST戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)プロジェクト企画調査(代表:原圭史郎)のサポートを得て実現しました。
 本実践では、参加町民が、そのままの年齢で2060年にタイムトラベルした状況を想定し、2060年の町民になりきって意思決定や考察を行う「仮想将来世代」グループと、現在から将来を考察する「現世代」グループとに分かれ、最初は別個に地方創生プランの施策を検討し、最後に両世代グループがペアとなって合意形成・交渉を行いました。この実践からは仮想将来世代グループの意思決定の基準や優先順位は現世代グループのそれと異なり(例:仮想将来世代グループは、複雑で時間のかかる課題にこそ優先的に取り組もうとする傾向)、また、社会変革のインセンティブが現世代グループと比較しても高いこと等が明らかにりました。本事例は、「仮想将来世代」の仕組み導入が、人々の意思決定や社会的合意形成に有する効果を初めて明らかにした実践です。方法論含めて、その後に続くフューチャー・デザイン実践のベースとなっています。またこの実践例は、国内のメディアはもとより、BBCやWashington Post 誌などの海外紙の記事にも取り上げられています。この後に続く様々な実践や研究からも、仮想将来世代の仕組みを導入することで、持続可能性を考慮した建設的な議論や意思決定が導かれる可能性が示されています。
 なお、矢巾町ではその後もフューチャー・デザインの実践が進み、2019年には政策立案におけるフューチャー・デザインを実践するための「未来戦略室(現在は未来戦略課)」が設置されました。将来世代視点からの行政計画や政策のアセスメントなど、持続可能性を担保するための取り組みが継続的に進んでおり、新たな仕組みの導入が未来の計画や意思決定を支える先導的な事例となっています。矢巾町においてフューチャー・デザインが導入されるに至った経緯や、今後の町の展望についてはこちらの資料からも御覧になれます。

参考文献

━━ Case:02

2050年に向けた公共施設管理・町営住宅の計画提案

岩手県矢巾町/2017年度

 本実践は、原圭史郎教授らのグループと矢巾町が連携し実施したものであり、参加者全員が、現世代および仮想将来世代の両方の立場・視点を経験し、その後に最終的な意思決定を行うことにより、長期的観点からの意思決定や合意形成を実現するアプローチが採用されました。現在の多くのフューチャー・デザインでも、この手法が応用されています。具体的には、1回目は全員が現世代の視点から公共施設管理・町営住宅のプランに関する施策を検討し意思決定、2回目は仮想将来世代として同じ内容を検討し意思決定、3回目はどちらの視点でも良いが意思決定の理由と将来世代へのアドバイスを明示して最終的な意思決定する、という3ステップの方法です。この実践の結果からは、将来世代の視点を経験した参加者には、現世代および仮想将来世代の双方の視点を共有する上位視点が形成されていること(視点共有が生まれること)が明らかになっています。
 矢巾町では2015年度、2017年度のフューチャー・デザインの実践経験を経て、2019年度には町の主要な行政計画である「総合計画」の策定において、全面的にフューチャー・デザイン応用され、住民が自ら総合計画の骨格を仮想将来世代の視点から議論しました。

参考文献

━━ Case:03

再生可能エネルギーの導入ビジョン

大阪府吹田市環境部/2016-2017年度

 吹田市は、2015年に試行的にフューチャー・デザインの考え方を取り入れた住民参加の議論を行うなど、矢巾町とともにフューチャー・デザインの導入を最も早くから進めた自治体の一つです。この実践事例では、市民参加の下で2050年のビジョンづくりと再生可能エネルギー導入についてのフューチャー・デザインを導入した議論が行われました。この実践では、将来世代の視点を取り入れる「仮想将来世代」と「バックキャスティング」と呼ばれる手法を組み合わせた、新たなアプローチが採用されました。本手法を用いた議論や意思決定の結果、吹田市における再生可能エネルギーの普及に関わる4つの未来社会(吹田市)ビジョンが描写されました。
 また、描かれた社会像に応じてCO2排出量がどの程度になるのか、簡易に定量計算ができるツールも導入され、参加者がこれらの数値を見ながら社会像のあり様を具体的に議論して、施策を提案したことも本フューチャー・デザイン実践の特徴です。

参考文献

━━ Case:04

働き方改革・業務改善施策の検討

経済産業省/2019年度

 経済産業省の業務改革を検討する若手職員による、働き方改革や業務改善をテーマとしたフューチャー・デザインの実践が行われました。これは人事研修でフューチャー・デザインを知った若手職員の有志によって始まった実践です。現在の政策課題や、過去に実施された政策の評価・分析なども踏まえて、現世代および仮想将来世代の双方の視点でこれから取るべき施策について検討が行われました。この事例は、政府職員による、トライアルとしての最初のフューチャー・デザインの実践例と考えられます。

参考文献

━━ Case:05

市民と職員による環境基本計画への政策提案

大阪府吹田市環境部/2019年度

 本実践では、市の第3次環境基本計画策定の議論にフューチャー・デザインが応用されました。公募で選ばれた市民と市役所職員が6グループを形成し4回にわたる議論を行いました。現世代の視点および仮想将来世代の視点によって「2050年時点の吹田市の社会像」と「今後採用すべき政策オプション」が検討され、グループごとに最終的な施策案の意思決定や政策評価が行われました。この実践で提起されたアイデアや考え方および評価結果は、市の計画策定においても参照されています。
 また、本実践から得られたデータからは、仮想将来世代の仕組みを導入することによって、個人特性としてのCritical thinking(批判的思考)の強弱に依らず、「将来への危機意識」「社会目標の共有意識」「現世代の責任意識」などの、将来世代への共感に関わる認知が高まりうることが示さています。

参考文献

━━ Case:06

2050年カーボンニュートラルに向けた政策デザイン

京都市/2019年度

 本実践では、2050年の京都市カーボンニュートラルを目標として、公募で選ばれた市職員25名がチームとなって5回にわたる政策デザインのためのフューチャー・デザインを実施しました。市職員が仮想将来世代の立場から、2050年のカーボンニュートラルを実現した京都市の社会像および2030年までに実施すべき施策を提案し選択しました。本実践を通じて描かれた2050年社会像の一部は、行政計画の中にも反映されています。
 実践結果に関するデータからは、仮想将来世代の視点で考察した場合は、社会変革につながる具体的な施策が広く提起されるとともに、参加した職員にも認知変化が見られました。例えば、京都市らしさの再評価や、社会全体にとって望ましいと思われる目標共有の意識の高まりが見られました。
 なお、この実践では、2050年社会像を構成する様々な要素や施策間の関係性をシステム的に理解するために「因果ループ図」が使用され、フューチャー・デザインの中でシステム思考を導入する意義や効果も示唆されています。

参考文献

━━ Case:07

水道インフラの持続可能な維持管理の計画と評価

大阪府吹田市水道部/2022年度、2024年度

 上下水道を含む社会インフラの持続可能な維持管理は、国や自治体にとって重要かつ喫緊の課題となっています。吹田市水道部では職員の参加の下で、2050年の市水道のあり様を描き、次期ビジョンに向けた検討課題の抽出と取組の方向性を検討するフューチャー・デザインに取り組みました。特に、2050年ごろの市水道のあるべき姿や、これから求められる施策を将来世代の視点からデザインしました。本実践では、仮想将来世代の仕組みを導入することで、将来の問題に対する危機意識や、水道利用者の利用状況を考慮した施策の必要性等についての認識が増大し、政策の優先順位や施策の方向性も変化することが示されました。これらの結果も踏まえて、本研究拠点では、フューチャー・デザインを導入した持続可能なインフラの維持管理を評価するためのアセスメント手法の開拓も継続して進めています。
 なお、本実践とは別個に、2022年度に吹田市水道部と大阪大学大学院工学研究科 原研究室との共同研究として、市内2000世帯(無作為抽出)へのアンケート調査を実施し、市民の意識調査を行いました (研究論文の概要についてはこちら)。特に水道インフラの課題や対策の優先順位に関するに認識について、現在の視点から検討した場合と、仮想将来世代として検討した場合とで比較検証を行いました。その結果、仮想将来世代の視点で考察する場合、水道料金の値上げや水道事業の広域連携などに対する住民の認識が変化することも分かりました。将来世代の視点から考察することで、持続可能性(サステイナビリティ)がより認識されるようになったと示唆されます。

参考文献

  • Hara K, Ikenaga T, Arai T, Fuchigami Y, Policy Design and Decision Criteria for Sustainable Water Supply from the Perspective of “Imaginary Future Generations” - A Deliberation Experiment with Policymakers in a Municipality, Japan, Futures, 171, 103618, 2025
    https://doi.org/10.1016/j.futures.2025.103618
  • Fuchigami Y, Ikenaga T, Kuroda M, Hara K, Thinking from the Perspective of Imaginary Future Generations Changes the Public Perception of Sustainable Management of Water Supply Infrastructure – A Large-scale Questionnaire Survey in a Municipality of Japan, Futures, 175, 103709, 2025
    https://doi.org/10.1016/j.futures.2025.103709
    『“未来人”視点をもつと、水道インフラ施策への意識が変わる』(プレスリリースはこちら)
  • 池長大賀,渕上ゆかり,黒田真史,原圭史郎(2022)水道インフラの維持管理問題における仮想将来世代導入の効果検証 - 吹田市での大規模アンケート調査, エコデザイン・プロダクツ&サービスシンポジウム2022
  • 青木尚登, 渕上ゆかり, 原圭史郎 (2024) 水道インフラ維持管理の計画と評価における フューチャー・デザインの効果分析 ~大阪府吹田市の行政職員による討議実践をもとに, エコデザイン・プロダクツ&サービスシンポジウム2024
  • 吹田市水道部ホームページでの紹介

━━ Case:08

再エネ技術普及のシナリオ評価とカーボンニュートラル政策のデザイン

吹田市環境部/2022年度

 吹田市環境政策室は、職員参加の下でフューチャー・デザインに基づく2050年のカーボンニュートラル実現のための政策立案の実践(研修)を行いました。現在の市職員の立場と2050年の仮想将来世代の立場のそれぞれで、2050年時点の吹田市の社会ビジョンを描写するとともに、2030年までに実施すべき施策の抽出と選択を行いました。仮想将来世代の立場で選択した施策は、現在の職員の立場で提案した内容とは内容や質に様々な変化が見られるなど、仮想将来世代の仕組み導入の効果が見られました。
 また本実践を実施するにあたっては、再生可能エネルギー技術の普及シナリオ評価の情報も活用しました。まず研究者チームが、電気自動車(EV)や太陽光発電(PV)、V2Hなどの有望な技術が2030年、2050年に吹田市に普及した複数のシナリオを構築し、モデルによるシミュレーションを行うことで、コスト削減や二酸化炭素削減効果などの5つの指標について2050年までの技術普及の効果を評価しました。これらの情報や技術普及の未来予測に関する客観的データも踏まえて、カーボンニュートラル政策の検討が行われたことが本フューチャー・デザイン実践の一つの特徴です。

参考文献

  • Iwasaki Y, Kobashi T, Fuchigami Y, Hara K, Future Scenarios and Assessment of Gradual Diffusion of Renewable Energy Technologies towards 2050: Case Study of a Japanese Municipality, SSRN (preprint), 2023
    http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4674824
  • Hara K, Iwasaki Y, Fuchigami Y, Policy Choices and Individuals' Attitudes from the perspective of Imaginary Future Generations—A Discussion Experiment with City Officials on Carbon Neutrality, Futures and Foresight Science, 8(2), e70044, 2026
    http://dx.doi.org/10.1002/ffo2.70044
  • 岩崎豊、渕上ゆかり、原圭史郎(2022)脱炭素社会実現へ向けた政策判断における仮想将来世代導入の効果-吹田市での討議実践, エコデザイン・プロダクツ&サービスシンポジウム2022
  • 岩崎豊、小端拓郎、渕上ゆかり、原圭史郎(2022)脱炭素社会へ向けた技術シーズのシナリオ評価-吹田市のケーススタディ、環境科学会年会要旨集
  • カーボンニュートラルを目指す大学等コアリションでのインタビュー記事

━━ Case:09

行政計画(都市計画マスタープラン)のアセスメント

岩手県矢巾町/2023年度

 公共政策分野において、行政計画を持続可能性や長期的観点の観点から評価し、計画の改善につなげる実践は重要課題となっています。フューチャー・デザインを応用し、現行の計画や政策が、将来世代に与える影響をより具体的かつ多角的に評価できる可能性があります。
 矢巾町では、大阪大学の原研究室との連携のもとで2023年8月から11月にかけて、フューチャー・デザインを実施し、都市計画マスタープランの改定に向けた評価と計画改善の実践を行いました。庁内の9課室から合計21名の職員が参加し、現世代2グループ、仮想将来世代2グループの4グループに分かれて、マスタープランを現世代および仮想将来世代の視点から評価しました。最初の3回で4グループが別個に都市計画マスタープランの評価と施策の提案を行い、最後の第4回目に現世代と仮想将来世代の1グループずつがペアを組み合意形成を行って、計画改善に向けた5つの具体的な施策を提案しました。この実践では特に、都市開発と農村地域との格差問題など、現在の視点からの検討では解決が困難なトレードオフ問題を中心的に議論し、現世代と将来世代の双方の視点を取り入れたアセスメントを実行したのが特徴です。
 実践の結果、現世代グループと将来世代グループとの間では、都市計画上の課題の着眼点や課題設定、評価結果や施策案において差異が明確に見られました。特に仮想将来世代は2050年の矢巾町の未来社会像をより具体的に描写し、農村の人手不足の問題の潜在的リスクなど、矢巾町にとって本質的な課題に着目し、現行計画の評価と行う傾向がありました。
 この取り組みは、フューチャー・デザインを行政計画のアセスメントに応用した初めての事例であり、長期的・持続可能性の観点から行政計画を評価する新しい手法を提起したものです。仮想将来世代の視点を取り入れた評価を行うことで、時間軸を明示的に取り込んだ行政計画のアセスメントと政策立案を実行するための新たな手法開拓にもつながると考えれます。

参考文献

━━ Case:10

産学官ステークホルダーによるエネルギー・地球温暖化対策の議論

地方公共団体、企業、学術機関等/2023年度

 2023年12月19日に開催された第19回「近畿地域エネルギー・温暖化対策推進会議」では、近畿地域の国の地方支分部局、 域内の地方公共団体、エネルギー関係者、大学・研究機関の関係者等が参加し、2050年カーボンニュートラルをテーマにフューチャー・デザインの考え方を応用した意見交換が行われました。2050年時点の社会状況とともに、ライフスタイルに関連して、個人あるいは組織として10年以内に実現すべき施策を、仮想将来世代の立場から検討しました。仮想将来世代の立場からは、エネルギー・温暖化対策関連の意見だけでなく、「技術の発展に伴う1日3時間労働の実現、余剰時間を使った環境保全活動の実施」など俯瞰的な視点から様々な意見が出されました。
 2024年度からは、本推進会議の下に「フューチャー・デザイン分科会」が設置されました。この分科会では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた様々な施策を、産学官の多様な主体が仮想将来世代の視点で一緒になって議論し提案する、初の試みです(詳細はCase:15を御覧ください)。
 カーボンニュートラル社会の実現に向けては、多様なステークホルダーが連携し、今後取るべき施策や道筋について合意形成を図る必要があります。フューチャー・デザインによって将来世代の視点を取り込むことにより、多様な主体による議論や合意形成がより促進される可能性があり、関連の研究や実践が始まっています。

参考文献

  • 「近畿地域エネルギー・温暖化対策推進会議事務局」による会議の報告

━━ Case:11

水環境問題に関する対策の検討 ― ホーチミン市の例

ホーチミン市工科大学/2017年度

 2017年2月に、ホーチミン市工科大学において学生および研究者(教員)の47名が参加し、ホーチミン市の水環境問題の現状や将来の問題について検討を行いました。個人に対するアンケート調査の結果、現在の視点から将来を検討した場合と比べて、仮想将来世代として検討した場合には、参加者が重視する観点が、短期的な利益につながる施策から、人間の活動が地球環境問題に及ぼす影響などの長期的課題の解決に資する施策へとシフトする傾向が見られました。また、この実践事例からは、未来社会像の描き方によっても、仮想将来世代の導入効果が変化しうること示唆されています。
 今後は、様々な国や地域、文化の下でのフューチャー・デザインの研究や実践がますます重要になってくると考えられます。


参考文献

  • Kuroda M, Uwasu M, Bui X.T, Nguyen P.D, Hara K, Shifting the Perception of Water Environment Problems by Introducing “Imaginary Future Generations - Evidence from participatory workshop in Ho Chi Minh City, Vietnam, Futures, 126, 102671, 2021
    https://doi.org/10.1016/j.futures.2020.102671

━━ Case:12

カーボンニュートラル・防災の統合的施策と自治体間広域連携の検討

西宮市、尼崎市、豊中市、吹田市、経済産業省近畿経済産業局、環境省近畿地方環境事務所/ 2024年度

 本実践は、4自治体(西宮市、尼崎市、豊中市、吹田市)と近畿地方の政府機関が連携し、2060年社会を見据えて、カーボンニュートラルおよび防災の統合的施策およびそのための広域連携戦略を検討するフューチャー・デザインです。これまで個別に議論されてきたカーボンニュートラル政策と防災政策を一体的に捉え、これらの統合的施策のあり方を議論していくことで、より効果的な政策立案につながる可能性があります。またカーボンニュートラルや防災など長期的政策課題に対処するためには自治体間連携を含む、広域連携戦略が今後ますます重要になると考えられます。本フューチャー・デザインは、これらのテーマについて参加機関の職員が、仮想将来世代の視点から検討する新たな取組となります。
 日本および世界が多様な持続可能性問題や長期課題に直面する中、取組は、フューチャー・デザインの学術的知見を基に、組織間連携を見据えた持続可能な未来社会のあり方と、そのための政策を構想する先導的な事例となり得るものです。


参考文献

  • 「吹田市等4自治体および政府機関と連携した フューチャー・デザイン」「阪大のプレスリリース」「吹田市のプレスリリース
  • 杉田岳斗,奥田将, 渕上ゆかり, 原圭史郎 (2024) カーボンニュートラルと防災の統合的施策の検討におけるフューチャー・デザインの効果検証―複数自治体と政府機関の職員参加による討議実践, エコデザイン・プロダクツ& サービスシンポジウム2024
  • 奥田将, 杉田岳斗, 渕上ゆかり, 原圭史郎 (2024) フューチャー・デザインによる組織間の連携強化への効果に関する検証, エコデザイン・プロダクツ& サービスシンポジウム2024

━━ Case:13

気候変動適応策・緩和策とレジリエントな都市計画の提案

水戸市/ 2024年度

 本フューチャー・デザインでは、茨城県水戸市役所の22課室から集まった職員が、2060年を見据えて市の気候変動適応策・緩和策と、レジリエントな未来社会のあり様や都市計画について検討を進めています。本件は、気候変動適応策の研究を進めている茨城大学地球・地域環境共創機構(GLEC)とも連携して実施しており、適応策の導入に関わる費用便益や社会的受容性などに関する科学的知見や情報も踏まえて、2030年までに水戸市でとるべき施策の検討を進めています。
 気候変動の進行が見込まれる中、都市部では、豪雨などの災害に備えた適応策の検討が今後は喫緊の課題になると考えられます。本実践では、河川周辺の防護と集団移転、コンパクトシティ化の具体方策など、長期的視点が必要となる政策立案や意思決定におけるトレードオフも踏まえた議論を現世代および仮想将来世代の視点から実施する点が特徴であり、都市部における気候変動適応策・緩和策に関するフューチャー・デザインの先導的な事例です。


参考文献

━━ Case:14

高校生・大学生らが持続可能な未来と環境政策を提案

兵庫県/ 2024年度

 兵庫県では、「第5次兵庫県環境基本計画」の改定に向け、未来の社会のあり方とこれから県として取るべき対策・施策について広く議論を行う「ひょうご環境未来会議」を、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)の協力のもと開催しました。本会議は、大阪大学大学院工学研究科 原圭史郎研究室が学術支援を行い、フューチャー・デザインを導入した議論が行われました。
 本会議は2024年6月に豊岡市、神戸市、姫路市の3会場で実施され、計67名が参加しましたが、参加者の7割強が高校生・大学生(県下の9高校および3大学からの参加)であったことも大きな特徴です。
 参加者は、「脱炭素」「自然共生」「資源循環」の3テーマについて、3地域で全14グループに分かれて議論を行い、仮想将来世代の立場から2050年社会のあり様を描写するとともに2024年の世代が取るべき施策を提案しました。仮想将来世代の視点で検討した参加者からは、「人材育成や教育プログラムの実践」、「研究開発・技術開発の重要性」「政策を具現化していくための具体的な仕組み」の重要性が提起され、多くの具体的な施策・アドバイスが提示されました。
 フューチャー・デザインの既往研究からは、将来世代の視点で考察や意思決定することによって、未来に関わる危機意識や社会目標の共有意識が高まること、社会変革へのインセンティブが高まること、が示唆されています。本フューチャー・デザイン実践においても、参加者からはこれらの特徴にも関わる発言や提言が観察されており、兵庫県の持続可能な未来のあり様を「自分事」として考え、共有する貴重な機会になったようです。


参考文献

  • ひょうご環境未来会議でのフューチャー・デザイン実践に関する資料

━━ Case:15

政府機関・自治体・公的機関・研究機関・産業界の 連携によるカーボンニュートラルに向けた政策提言

近畿地域エネルギー・温暖化対策推進会議「フューチャー・デザイン分科会」
/ 2024年度

 近畿地域エネルギー・温暖化対策推進会議は、2024年度から「カーボンニュートラル実現に向けたフューチャー・デザイン分科会」を設置しました。政府の会議体において「フューチャー・デザイン」を目的とした分科会が初めて設置されたケースだと考えられます。この分科会では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた様々な施策(アイデア)カタログを作るために、産学官の多様な主体が仮想将来世代の視点から、現世代の人たちが取り組むべき施策を議論しています。
 本分科会には、政府機関、自治体、公的機関、研究機関、産業界など、22の機関・組織が参加しており(参加機関の詳細は下記参照)、フューチャー・デザインを政策に応用した議論を進めています。具体的には、参加者が、2050年の仮想将来人として、2050年時点での近畿圏の社会状況や、2024年時点から取り組むべき具体的施策を3回のワークショップを通じて検討しています。なお本分科会では、大阪大学 原圭史郎研究室が、フューチャー・デザインの理論的観点から技術協力を行っています。
 本事例の特徴は、産学官の多様な主体が、それぞれの専門性や立場を生かしつつ、組織の枠組みを越えて、共通の社会目標であるカーボンニュートラル実現を見据えた「新たなイノベーションの方向性」を検討している点にあります。また、政府会議体において、多様なセクター(産学官)の参加によりフューチャー・デザインの考え方を応用して、施策や政策の具体的な検討が行われた初の実践事例と言えます。

【参考】カーボンニュートラル実現に向けたフューチャー・デザイン分科会参加機関
経済産業省近畿経済産業局、環境省近畿地方環境事務所、国土交通省近畿地方整備局
滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、大阪市、吹田市、神戸市
滋賀県地球温暖化防止活動推進センター、京都府地球温暖化防止活動推進センター
大阪府地球温暖化防止活動推進センター
(公財)地球環境産業技術研究機構
(公社)関西経済連合会、大阪商工会議所
関西電力(株)、大阪ガス(株)、パナソニックオペレーショナルエクセレンス(株)
パタゴニア日本支社、(株)アルタレーナ/Value way(株)
(株)メンバーズ(脱炭素DX研究所)

参考文献

━━ Case:16

「住民参加による地域・観光資源の評価と政策デザイン」

岩手県矢巾町/ 2025年

 地域資源や観光資源を広く検討・評価し、これを未来のまちづくりに活かすことは、まちの魅力と持続可能性を高めていくための重要な重要となります。本実践では、岩手県矢巾町産業観光課と大阪大学大学院工学研究科の原研究室が連携し、矢巾町の観光産業に携わる住民の皆さんの参加の下で、仮想将来世代の視点から2060年の矢巾町のあり様とそこでの観光資源や地域資源を多角的に検討しました。そして、これらの評価検討を踏まえて、今後町として取るべき観光政策の提言を行いました。これらの提言は、町の観光政策にも今後活用される予定です。
 これまでのフューチャー・デザイン研究や実践から、将来世代の視点を取り入れて検討することによって、地域資源や町の長所をより柔軟かつ具体的に検討できる可能性が示唆されています。本実践においても、仮想的な将来世代の視点を取り入れることによって、矢巾町の潜在的な資源やそれを活かす施策が多く提示されました。気候変動などの社会的変化も踏まえつつ、地域の文化や歴史、環境などを維持・活用するための多様な施策が提起されました。

参考文献

  • 作成中

━━ Case:17

大学生と社会人(企業関係者)による気候変動対策のアクションプラン

滋賀県・淡海環境保全財団 / 2025年度

 滋賀県では、2050年までに県内で CO2ネットゼロを目指しています。この一環で、淡海環境保全財団(滋賀県地球温暖化防止活動推進センター)が「環びわこ学生ネットゼロムーブメント事業2025」を進めており、CO2ネットゼロを達成するための行動について「学び」、多様な人と「つながり」、県内へ「ひろげる」ことを目標に活動しています。
 本事業の一環として、県内の大学生と企業関係者の参加の下で、2050年の滋賀県の暮らしや社会像を描き、気候変動対策に向けてこれから取り組むべき施策やアクションプランを検討するフューチャー・デザインを実践しました。2050年の滋賀県の社会のあり様とともに、「ライフスタイル・行動変容」「教育・人材育成」「産業・技術開発」「気候変動への適応・防災」の4分野において今後取り組むことやアクションプランを、仮想将来世代の視点から検討しました。異なる立場のメンバーが、2050年の視点に立って、これらの分野について多様な提案を行いました。
 フューチャー・デザインを通じて議論・提案されたアクションプランに沿って、滋賀県の温暖化対策につながる具体的な活動を実施する計画となっています。



参考文献

━━ Case:18

健康的で気候変動に対して強靭な都市を構想するためのフューチャー・デザイン

GERICS、ドイツ・ハンブルグ市/2026年

 ドイツのGERICS (The Climate Service Center Germany)は、政治・企業・行政の意思決定者が気候変動に適応するための科学的根拠に基づくプロトタイプ製品・サービスを開発する研究機関です。GERICSは、大阪大学のフューチャー・デザイン研究チームと連携し、ドイツ・ハンブルク市内の地域において健康的で持続可能な都市シナリオを検討するフューチャー・デザインを実践しました。
 このフューチャー・デザイン実践には、ハンブルクの政党関係者、NGO、市民団体、市職員の多様なステークホルダーが参加しました。初回ワークショップでは、参加者が「現在の視点」から、暑さ(Heat stress)に対応した、健康的で持続可能な空間へと地域を転換するための選択肢や戦略について議論・提案しました。第2回ワークショップでは、2050年の「仮想将来世代」の視点を取り入れ、2050年のハンブルク市の社会状況を描写・分析し、その後に、2050年社会に至る道筋となる施策や戦略を検討し、現世代へのアドバイス・提言を行いました。本フューチャー・デザインの重要な特徴として、意思決定を支援するため、第3回ワークショップにおいて、仮想未来世代の方法とモデリング技術を統合したアプローチを採用したことが挙げられます。GERICSは高解像度都市気候モデリングとエージェントベース・モデリングを組み合わせ、第1回と第2回のワークショップで参加者が提案した対策や戦略が与えうる効果や影響をモデルでシミュレーションし、その結果の情報を参加者に提供しました。これらの情報には熱ストレス低減の可能性や、排出削減の可能性や効果等が含まれます。また、提案された施策が大気環境、生物多様性、社会的結束に将来与えうる影響も検討されました。参加者は、現在および仮想将来世代の視点、ならびにモデリングで導かれた提案施策の効果に関する科学的知見に基づいて、最終的な政策提言を策定しました。
 このフューチャー・デザイン実践は、仮想将来世代の手法と定量的モデリング技術を組み合わせ、また、多様なステークホルダーが意思決定に参画することによって、長期的観点から合理的かつ効果的な対策・政策を提案することを目的としたものであり、持続可能な都市計画をボトムアップで検証し、合意形成を導くための新たな枠組みを提示しました。



参考文献

  • 作成中

━━ Case:19

大学経営・企画を支える人材育成のためのフューチャー・デザイン

大阪大学/2026年

 大学を取り巻く環境が急速に変化し、職員に求められる役割が高度化する中、長期的視点での大学経営や、その企画立案を実施できる人材育成が急務となっています。そのような中で、2026年度から、大阪大学では、「大阪大学 事務職員×フューチャー・デザイン 人材育成プロジェクト」がスタートしました。フューチャー・デザインは既に様々な研究実践が進んでおり、そこから得られた知見を基に、人材育成の教育プログラムとしても開発が進んでいます。この人材育成の機会を、学生のみならず大学事務職員も拡大し、高等教育機関としての大学の企画と長期的観点からの運営を支えていくための第一歩となるプロジェクトです。
 本プロジェクトは3年にわたって、大学の企画や運営を担う事務職員がフューチャー・デザインを学び、その後自律的にプロジェクトや企画の方向性を決定し、大学の課題や長期的な計画に取り組み、実践にまで落とし込む予定になっています。初年度である2026年度は、学内の様々な所属(部局、ポジション)から学内公募で選抜された事務職員13名(コアメンバー)が、大阪大学大学院工学研究科の開講科目である「フューチャー・デザイン」の授業・演習を大学院生とともに受講します。本講義は様々な分野の専門家や実務家が講師としてフューチャー・デザインについて講義や演習を実施するものであり、この中で、フューチャー・デザインの考え方と実践の方法を学びます。その後はコアメンバーが、大学経営やプロジェクト、具体的な課題の企画立案を進めるとともに、2年目以降のプロジェクトメンバーの募集要件等も検討します。2年目以降は若手事務職員を含む新たなメンバーも参加し、独自に設定した大学の課題に対してフューチャー・デザインの実践を進めていく予定です。
 本プロジェクトを通じて、大学院生と大学事務職員が“共に学び合う”ことも大きな特徴であり、「世代」と「所属(部局、ポジション)」を超えた、大学全体での協働的な学びと実践を可能とするのがフューチャー・デザインだと言えます。

参考文献

  • 「大阪大学 事務職員×フューチャー・デザイン 人材育成プロジェクト」(プレスリリース

産業界における実践事例

━━ Case:01

研究開発戦略(R&D)への応用

オルガノ株式会社(製造業)/2019-2021年度

 本事例は、産業界での特に技術イノベーションや研究開発戦略にフューチャー・デザインを応用した初めての事例です。この実践は、大阪大学とオルガノ株式会社との共同研究の一環としてスタートしました。既存の技術シーズをマーケットに上市するだけではなく、将来世代の視点から研究開発戦略を検討することによって、新たなイノベーションの方向性をデザインすることが可能となります。
 本実践では、水エンジニアリング会社であるオルガノ株式会社の研究開発センターを中心とした社員が、仮想将来世代の視点から研究開発戦略の方向性を検討しました。現在の視点から将来を考察して意思決定する場合と比較して、仮想将来世代の視点から考察することによって、R&Dを検討する際の判断基準が変化し、研究開発シーズと新たなイノベーションの方向性の探索が可能となることが示唆されています。
 3年間の大阪大学との共同研究の後、フューチャー・デザインは、企業の人材育成および新事業創出の仕組みとして内部化されており、長期的観点から人材育成や、事業や技術開発のイノベーションの方向性のデザインのための取り組みが継続して進められています。

参考文献

━━ Case:02

技術イノベーションと事業戦略への応用

帝国イオン株式会社(製造業)/2020年度~2022年度

 フューチャー・デザインは昨今、技術開発や事業継承の検討に対しても応用が進められています。本フューチャー・デザインでは、オンリーワンのめっき技術を持つ会社である帝国イオンの社員が仮想将来世代の視点から、会社の有する有望な特定技術の開発方針や事業方針、そして事業継承のあり方についても議論を行いました。仮想将来世代の視点から社員が提案した施策を多角的に評価する手法も取り入れることで、今後の技術シーズの応用展開の方針や事業戦略をデザインしました。また、このフューチャー・デザイン実践からは、参加した社員による、会社および会社の持つ技術の可能性に対する認識にも変化が生まれ、その変化がフューチャー・デザインの実践後も継続していることも確認されています。

参考文献

  • 藤田健, 倉敷哲生, 原圭史郎, 中村孝司, 池田順治, フューチャー・デザイン・ワークショップにおける第三者外部評価の影響と効果持続性の検証, 工学教育 , 72(5), 5_2 - 5_9, 2024
    https://doi.org/10.4307/jsee.72.5_2
  • 藤田健, 棚原渉, 倉敷哲生, 原圭史郎, 池田順治, 中村孝司, フューチャー・デザインに基づく持続可能な事業提案ワークショップの実践とその効果に関する研究, JCOSSAR 2023論文集, 301-307, 2023
    https://doi.org/10.60316/jcossar.10.0_301
  • Fujita K, Kurashiki T, Hara K, Ikeda J, Nakamura T, Analysis of the Effects of Adopting "Imaginary Future Generations" on the Design of Technology Development and Business Proposal - Case Study of Workshop at a Plating Processing Company, Proceedings of EcoDesign 2023, 955-962, 2023
  • 新聞記事での紹介「仮想将来世代が見る会社の未来‐固定観念を廃す仕組みに」

━━ Case:03

企業の新規事業提案への応用

メーカー/2020年度

 長期的視点からの企業における事業提案や経営戦略の検討は、持続可能な経営や社会貢献という観点からも重要です。昨今、企業の新規事業提案において、フューチャー・デザインを導入することでどのような効果が得られるか、という検証も進められています。
 本実践では、2040年の食に関する新規事業提案をテーマに、企業関係者による議論・意思決定の場にフューチャー・デザインを導入し、効果を検証しています。仮想将来世代の視点からの討議や意思決定では、現在の視点から検討した場合と比べて、顧客・キーパートナーをより重視するなど事業提案におけるステークホルダーの範囲の拡大が見られました。また、仮想将来世代の視点からの提案は、企業内の意思決定者にも評価されうることも分かりました。

参考文献

  • 細見知広, 近藤元貴, 若本和仁, 原圭史郎, 倉敷哲生, 企業における新規事業提案に対するフューチャー・デザインの効果検証―将来世代の視点による事業提案とその評価, 研究 技術 計画 ,38(1), 113-129, 2023
    https://doi.org/10.20801/jsrpim.38.1_113

━━ Case:04

産学官のメンバーによる再エネ導入アクションプランの検討

産学官メンバー/2024年

 京都市のカーボンニュートラル実現を産学官のメンバーで議論する「京都未来門会議(代表:東北大学小端拓郎 准教授)」では、2024年に京都市のカーボンニュートラル実現に向けた施策と今後すぐに取り組むべき具体的プロジェクトを検討するフューチャー・デザインを実施しました。フューチャー・デザインの学術知見を有する大阪大学の研究メンバー(原圭史郎教授、野間口大准教授)らが討議デザインを支援し、観光、交通、エネルギー、市民のライフスタイル、建物、緑地利用など様々な観点を俯瞰的にとらえ、2050年のカーボンニュートラルと都市魅力向上の両立を目指して2030年までに取り組むべき施策提案と、2050年までのロードマップ、そしてアクションプランを検討すべく、4回の討議をオンラインで実施しました。
 参加メンバーは学(大阪大:フューチャー・デザインの討議デザインを担当、東北大、東大、国立環境研究所の研究者)、公的機関(京都市、京都市環境保全活動推進協会)、産業界(主に太陽光発電に関連する企業経営層)のメンバーであり、仮想将来世代の視点から、再エネ導入を主とした具体的なプロジェクト実施にむけた議論を行いました。
 また、本実践では2050年までのロードマップのデザインにおいてシステム思考のツールである「因果ループ図」を導入し、具体的な施策の議論を行った点や、事業やアクションプランを明らかにする点も特徴です。仮想将来世代の視点を導入することによって、具体的な施策やプロジェクト形成を産学官の多様なステークホルダーで議論し意思決定していくことは、持続可能社会への転換を導く新たなイノベーションを創成していくうえでも今後ますます重要になると考えられます。

参考文献

  • Yutaka Nomaguchi, Takuro Kobashi, Keishiro Hara (2025) Future Design Practice for Creating an Action Plan toward Carbon Neutrality in a Local City: A Case Study of the Kyoto Miraimon Project, Proceedings of EcoDesign 2025

━━ Case:05

異業種企業関係者と学生による2050年持続可能社会とデジタルの役割の検討

異業種企業9社、1自治体、大学(学生)/2024年

 NEC関西地域共創プログラムは、大阪大学工学研究科 原研究室との連携により、持続可能な未来社会のあり様とデジタルの役割に関する論点を議論するフューチャー・デザインを実施しました。本企画は、産業界の関係者がフューチャー・デザインについて学ぶという目的に加え、大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムの講義「フューチャー・デザイン」の一環としても実施したものです。
 同プログラムに参加する異業種企業9社の社員、1自治体の関係者および大阪大学の学部生・大学院生が参加し混合チームとなって、2050年未来社会のあり様とともに、「気候変動と災害」「ウェルビーイング」「ヘルスケア」の3課題に対処するため今後5年の内に取り組むべき施策、さらにはこれらの施策におけるデジタルの役割について、「仮想将来世代」の視点から検討しました。将来世代の視点から検討することにより、新規の施策提案や、今後考慮すべき課題やリスク、未来社会で共有されうる、新たな価値観への気づきなど、広く議論されました。
 フューチャー・デザイン研究からは、将来世代の視点を共有することで、組織や立場の壁を越えた連携可能性や連携のモチベーションを高める可能性も示唆されていますが、本実践においては、異業種の企業と学生が共に、未来社会の可能性や課題を検討する、学びを超えた貴重な機会となりました。持続可能社会に向けて、新たな産業イノベーションの方向性をデザインすることは今後ますます重要になると考えられ、フューチャー・デザインがその基盤となる可能性があります。

参考文献

  • 作成中

━━ Case:06

医薬品のR&D戦略のデザイン

日本新薬株式会社/2024年度

 日本新薬株式会社は大阪大学大学院工学研究科原研究室との共同研究により、医薬品・創薬の研究開発戦略のデザインをテーマとしてフューチャー・デザインを実践しました。様々な研究グループから参加した25名の社員が6回の議論を通じて検討を行い、仮想将来世代の視点からも2050年の社会や事業のあり様と、今後取り組むべき研究開発テーマやイノベーションの方向性を検討しました。仮想将来世代の視点を導入する前には、過去の会社のR&D戦略の分析や評価も実施しました。
 本共同研究では、実践の結果やデータも踏まえて、将来世代の視点から会社事業やR&Dを検討することによる、イノベーションの方向性の再設計(リデザイン)の可能性や有効性についても検証を進めています。このフューチャー・デザインを通じて、参加した社員の、未来の会社事業に対する意識の変化や、R&Dの提案内容に対する積極的な動機付けが見られるなどの効果も示唆されています。

参考文献

  • 作成中

━━ Case:07

関西圏における2060年エネルギーシステムの検討

関西電力株式会社/2025年度

 未来のエネルギーインフラやそれを実現するための技術システム、制度設計は長期的視点で検討する必要があります。特に、未来社会におけるエネルギーの需要と供給のあり様を持続可能性の観点から検討し、必要となる施策(技術、仕組み、システム等)を検討していくためには将来世代の視点が欠かせません。
 大阪大学大学院工学研究科モビリティシステム共同研究講座では第2期(2025年~)の研究計画の柱の一つに「フューチャー・デザイン」の応用研究と実践を掲げています。初年度の2025年度は、関西電力株式会社の社員参加の下で、2060年の関西圏のエネルギーシステムについて、将来世代の視点で検討するとともに、今後取るべき施策を提案・選択するフューチャー・デザインを実践しています。特に「モビリティ」「住まい」「産業」「エネルギーにまつわる価値観」「ライフスタイル」の5つの重点領域を定め、2060年の関西圏におけるエネルギーインフラや需要供給あり様を検討しています。また、これら施策の検討を具体化するために、因果ループ図など有効なツールの活用も進めています。
 2026年度以降は、フューチャー・デザインの考え方をベースとして、モデリングなどの手法も取り入れ、2060年に向けたエネルギーやモビリティのあり様についてより精緻に描いていくとともに、持続可能なエネルギーシステムの実現に向けて必要となる技術や制度の検討を深化させていく予定です。

参考文献

━━ Case:08

環境技術に関する研究開発戦略とロードマップの検討

神鋼環境ソリューション/2025年度

 持続可能社会の実現に向けて環境や資源循環に関する技術の開発とその社会実装は極めて重要です。環境分野の技術開発と関連事業を推進する神鋼環境ソリューションは、大阪大学大学院工学研究科原研究室との共同研究の一環で、研究開発戦略のデザインとロードマップ設計に関するフューチャー・デザインを2025年度より実践しています。2050年社会を想定して、技術や研究開発の方向性を仮想将来世代の視点から検討するとともに、これを実現して行くための具体的なロードマップ設計を実施していきます。また、フューチャー・デザイン実践においてストーリーダイアグラム(参考文献を参照)などの新たな方法を導入し、ユーザーも考慮したR&D戦略の具体化のための方法論開拓も進めています。
 また、このフューチャー・デザイン実践では、人材育成という観点からも効果検証を進めています。これまでのフューチャー・デザイン研究からも、将来世代の視点からイノベーションの方向性を検討することによって、長期的観点や独創的な視点の醸成、そして変革に向けたモチベーションの高まりなどが示唆されており、本実践においては、これらの既存研究の結果を踏まえて、人材育成に向けたフューチャー・デザインの効果を多角的に検証して行きます。

参考文献

  • 大平昂典, 藤田喜久雄, 野間口大, トランスフォーメーションを志向する構想設計のためのストーリーダイアグラムの提案, 日本機械学会第35回設計工学・システム部門講演会講演論文集, (2025), 1107

━━ Case:09

エネルギー分野における事業戦略と仕組みのデザイン

中部電力ミライズ / 2025年

 本フューチャー・デザインは、中部電力ミライズと大阪大学工学研究科原研究室との共同研究の一環として実施しているものであり、特に中部圏のエネルギー事業に関連して、企業の持続可能性と社会への影響や貢献の観点から、今後検討すべき事業戦略とそれを実現するために必要となる仕組みをデザインすることを目的としています。
 中部電力ミライズの社員が多様な部署から参加し、将来世代の視点で事業戦略やイノベーションの方向性を広く検討し、今後求められる仕組みをデザインしていきます。またフューチャー・デザインの実践によって長期的視点や独創性、変革のモチベーションなど、リテラシーの獲得や人材育成の観点からも効果の検証を進めています。

参考文献

  • 作成中

━━ Case:10

地球環境問題の解決に資する産学連携による研究・技術開発領域・テーマの創発

パナソニックホールディングス・大阪大学/2026年

 地球環境問題の解決を目指すための研究や技術開発のあり様は、長期的観点から検討していく必要があります。また、そのような研究開発のためには、産学の壁を越えた連携や協働が重要な意味を持ちます。しかしこれまでは、研究・技術開発テーマそのものを長期的観点から産学連携で検討し創発する機会や方法論はほとんどありませんでした。
 パナソニックホールディングス株式会社と大阪大学は、地球環境問題の解決に資する研究・技術開発領域やテーマの探索・創発を目的としたフューチャー・デザインをスタートしました。この実践の特徴は、同社の様々な専門分野の技術者と、大阪大学の若手研究者が一緒になって議論し、2050年の将来世代の視点を取り入れることによって、産学連携による研究や技術開発のテーマ探索を行うことにあります。また、フューチャー・デザインの実践を通じて、パナソニックホールディングス株式会社と大阪大学の中長期的な産学連携研究のための土台をつくることも目的としました。本実践においては、大阪大学の原圭史郎教授がフューチャー・デザイン導入の学術的サポートを、また、CO2資源化技術などの先端的が環境技術開発を進めている、大阪大学の中西周次教授も参画し、技術的観点からサポートを行なっています。実際に検討をおこなったのは、GX等の分野に従事するパナソニックホールディングスの技術者と、環境技術やAI等を専門とする大阪大学の若手研究者(准教授、講師、助教、博士学生)です。
 具体的には、A) 地球環境問題に関わる様々なリスクに対する「レジリエンス」の維持・向上、B)地球環境問題に対処した「人や社会のウェルビーイング」維持・向上、C)地球環境悪化そのものを緩和する仕組みや技術、の3つの重点領域を柱として、両者が中長期的に産学連携によって取り組んでいくべき研究・技術開発の領域を検討しました。
 これまでのフューチャー・デザイン研究からは、将来世代の視点を取り入れることで、新たなイノベーションの方向性をデザインしうること、また、異なる立場や組織の関係者の連携・協働を促進する効果が示されています。これらのフューチャー・デザインの学術的知見に基づき、産学の異なる組織、立場や専門分野の関係者が連携し新たな知を創発する取組が実現したと言えます。  

参考文献

  • 作成中

━━ Case:11

産業界・次世代リーダ―による「九州の未来2050」を描くフューチャー・デザイン

九州経済連合会/2026

 九州経済連合会は、九州の産業界・次世代リーダーが、持続可能な九州の未来社会(2050年)を描写し、今後取組むべき施策・アクションを検討するフューチャー・デザインの取組を開始しました。本取組では、大阪大学の原圭史郎教授がアドバイザーとなって、実践の支援を行いました。
 本フューチャー・デザインでは、九州・沖縄・山口の各地から推薦された様々な業種・業界の経営者あるいは組織マネジメントに関わる26社・団体からの次世代リーダーが、2050年の九州の持続可能な未来社会を構想し、産業界として今後連携しながら実施すべきことを広く検討することを目的としています。九州の持続可能な未来を検討する上で重要な領域として、①産業の高付加価値化、②食と農林水産業、③人材の循環、④持続可能なまちづくり、⑤暮らしと地域共生、⑥地域資源の活用の6つを定め、仮想将来世代の視点を取り入れながら、これらの領域における2050年時点での課題やニーズを検討するとともに、産業界として連携して取り組むべき施策やアクションを明らかにしていきます。
 本フューチャー・デザインの最大の特徴は、上記6領域にも関連する、九州の代表的・特徴的な産業分野の経営者やマネージャーが、業界の垣根を超えて、持続可能な九州の未来社会のあり様と、産業界として取り組む課題を長期的観点から検討したことにあります。九州ならではの強みや魅力、地域資源や暮らしを考察するとともに、将来にわたって維持し、育てていくべき価値や地域資源を検討する新たな取組です。また、フューチャー・デザインによって、産業界の横の連携を構築・強化していくことも本取組の重要な目的の一つとなっています。

参考文献

研究開発・技術評価/教育分野の実践事例

━━ Case:01

企業5社と大学生による2050年社会の課題とニーズの探索

異業種企業5社、大学/2022年度

 国内の異業種大手企業5社の社員と大阪大学の学生(学部生、大学院生)が一緒になって議論し、グローバルリスクに対するレジリエンスおよびウェルビーイングや健康の維持が達成されている2050年社会のあり様や課題、ニーズを探索することを目的としたフューチャー・デザインを実施しました。本実践は、異業種企業および学生が共に未来社会の問題をフューチャー・デザインで検討した初のケースとなります。議論の結果から、仮想将来世代の視点で考察することで、現在の視点からの検討だけでは探索できなかった新たな課題・ニーズの発掘が可能であることが分かりました。これらの検討結果は、今後の研究開発戦略へのヒントとなるものです。
 また、本実践ではシステム思考のツールである「因果ループ図」を活用して、課題群の因果関係を俯瞰的に整理し本質的課題の抽出を行いました。本事例からは、将来世代に共感をもった思考や意思決定につながるフューチャー・デザインとシステム思考(因果ループ図)の効果を両立させることが可能であることも示唆されており、未来社会の問題を議論し意思決定するための方法論や手法の開拓にもつながる示唆が得られました。
 本実践では、企業関係者と学生(学部生、大学院生)が一緒に将来の課題やニーズを、仮想将来世代の視点から検討したところも大きな特徴です。立場が異なっても、将来の課題に対する議論を共有できるということが重要なポイントであり、本実践からは教育効果という観点からも様々な示唆が得られています。

参考文献

  • Hara K, Fuchigami Y, Arai T, Nomaguchi Y, Compatible Effects of Adopting Imaginary Future Generations and Systems Thinking in Exploring Future Challenges - Evidence from a Deliberation Experiment, Futures & Foresight Science, e191, 2024
    https://doi.org/10.1002/ffo2.191

━━ Case:02

大学・大学院での教育プログラム実践

大学・大学院/2019年度 -

 大阪大学では、フューチャー・デザインの構想に携わるメンバーらが中心となって、2012年度の講義内で、電源構成やエネルギー技術の問題をテーマに、仮想将来世代の考え方を導入した初めての演習(議論)を実施しました。その後、フューチャー・デザインの研究も進み、2021年度からは、大阪大学大学院工学研究科において正規の講義「フューチャー・デザイン」(15コマ2単位)が開講されています。フューチャー・デザインが生まれた背景や基本的考え方(理論)、様々な課題領域への応用事例、グループ演習、矢巾町担当者など実践者による講演などフューチャー・デザインを体系的に学ぶプログラムとなっています。2026年度には、大阪大学の事務職員の人材育成プロジェクトの一環で、大学院生と事務職員とがフューチャー・デザインを一緒に学ぶ新たな取り組みもスタートしています(大阪大学 事務職員×フューチャー・デザイン 人材育成プロジェクトプレスリリース記事】)。また、大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムにおいても2019年度より「フューチャー・デザイン」の講義(8コマ1単位)が開講されており、長期課題やサステイナビリティ問題の構造、持続可能な意思決定の考え方や理論、実践演習に至るまでフューチャー・デザインを体系的に学ぶプログラムを提供しています。例えば、23年度の超域イノベーション博士課程プログラムでは、様々な研究科から本プログラムに参加している大学院生が、2050年を見据えた林業・森林管理のあり方について仮想将来世代の視点から検討しました(下記写真)。
 さらに、大学間連携プログラムも進めてきました。大阪大学、東京大学、京都大学、茨城大学、国連大学の大学間連携の下で開講している英語の集中講義「Frontiers of Sustainability Science」では、大学間をオンラインでつなぎ、留学生も一緒にフューチャー・デザインの考え方を活用した演習を行っています。2022年度、2023年度は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けたグループ演習を行い、仮想将来世代の視点から、課題や施策を検討することの意義を学びました。2024年度は、国籍や専門性など多様案バックグラウンドの学生同士が、それぞれ将来省の立場から、カーボンニュートラル政策の提案と合意形成を行う演習を実施し、将来省として交渉・合意形成することの意義や効果を検討しました。演習の結果や参加者へのアンケートからは、将来世代の視点を取り入れることで、国や地域、文化など様々な違いを乗り越えて、合意形成の可能性が高まることが示唆されています。
(参考事例として、Planetary health Allianceの Planetary Health Japan Hub がホストとなってフューチャー・デザインの考えも取り入れ、プラネタリーヘルス分野における世代間問題をテーマとした学生主体のワークショップを実施しています。)

参考文献

  • Hara K, Onuki M, Uwasu M, Tamura M, Kotera A, Pu J, Jarzebski M.P, Kameyama Y, Sustainability Education Incorporating Intergenerational Issues: A Case Study of an Online-Based Program in Inter-University Curricula Adopting the Future Design Method, SSRN (preprint), 2025
    https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=5248379
  • 大阪大学 事務職員×フューチャー・デザイン 人材育成プロジェクト」がスタート(プレスリリース
  • 超域博士プログラムの履修生による2019年度実施の講義「フューチャー・デザイン」の受講感想レポートはこちら
  • Uwasu M, Kishita Y, Hara K, Shen J, Kuroda M, Takeda H, Saijo T (2015) Future design - How to create future generations in visioning? , Proceedings of EcoDesign 2015, pp. 67-71

━━ Case:03

高校の授業でのフューチャー・デザイン

高等学校/2018年度-

 どのような社会をこれから構築していくべきなのか? 持続可能な社会を導くためにはこれから何が求められるのか? このような問いについて皆で議論し、合意形成を図る力やリタラシーの涵養は大変重要になってきています。そして、これらの力を養うためには、早い段階から、未来社会のことを考える機会が必要だと考えられます。既存研究および実践から、フューチャー・デザインの実践は、人材育成や教育の側面でも効果があることが示されつつあります。特に新たな視点を獲得し、持続可能な意思決定や判断力を育てるうえでも効果が示唆されています。このことから、高校の授業や課外活動においても、防災や高校の未来のあり方など多様なテーマを取り上げ、フューチャー・デザインを活用した議論の機会が生まれています。
 例えば、2018年8月には、徳島県阿南市の高校生・高専生ら52名が集まって、防災の問題をテーマとしたフューチャー・デザインの議論が行われました。また、大阪大学キャンパスでも高校生が集まってフューチャー・デザインで社会課題を議論する場が設けられています(下記写真)。大阪大学等の研究者らも支援する中で、このような高校の授業や課外活動の一環として様々な社会課題を将来世代の視点で考察する機会が生まれています。
(高校での実施例:岩手県不来方高校、大阪府立池田高校、大阪府立泉大津高校、徳島県富岡西高校ほか)

参考文献

  • 立山侑佐,倉澤健太,平山政義,倉敷哲生,原圭史郎,フューチャー・デザインを活用した防災ワークショップの時間的指向性による検証,工学教育 , 67 (3), 14-20, 2019
    https://doi.org/10.4307/jsee.67.3_14
  • 不来方高校のブログ

━━ Case:04

技術開発テーマのデザインと技術評価‐材料研究のシーズを例に

大学・大学院/2019年度、2020年度

 フューチャー・デザインの既往研究からは、「仮想将来世代」の仕組みを導入することによって、長期的観点あるいは持続可能性の視点から、学術研究や技術イノベーションの新たな方向付けが可能となることが示唆されてきました。本課題に取り組むため、大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻界面制御工学領域のメンバー(教員、学生)が、同工学研究科原研究室と連携し、「水熱技術の社会実装(2019年、2020年)をテーマにフューチャー・デザインの実践に取り組みました。その結果、仮想将来世代の視点で描写する社会状況に応じて、対象とする技術の相対的な価値や社会実装の条件が変化することが分かりました。その結果として、技術イノベーションの新たな方向性を定義することが可能となることも分かりました。

参考文献

  • Hara K, Miura I, Suzuki M, Tanaka T (2023) Designing Research Strategy and Technology Innovation for Sustainability by Adopting “Imaginary Future Generations”?A Case Study Using Metallurgy, Futures and Foresight Science, 5(3-4), e163
    https://doi.org/10.1002/ffo2.163
  • Hara K, Miura I, Suzuki M and Tanaka T (2024) Assessing Future Potentiality of Technology Seeds from the Perspective of “Imaginary Future Generations” ? a Case Study of Hydrothermal Technology, Technological Forecasting and Social Change202, 123289, 2024
    https://doi.org/10.1016/j.techfore.2024.123289
  • 『「仮想将来世代」の仕組みで水熱技術の将来性を評価』プレスリリース
  • 大阪大学研究シーズ集(2026)

━━ Case:05

持続可能な未来社会を支えるレアメタル需要・供給システムの検討

大学・大学院/2022年度

 カーボンニュートラル社会、持続可能な資源利用やサーキュラーエコノミーの実現は、国際的にも重要かつ喫緊の課題となっています。これらの社会目標に向けて、これから太陽光発電などの再生可能エネルギーや風力発電などの自然エネルギーを生み出すためのインフラストラクチャー、リチウムイオン電池に代表される大容量二次電池、高出力モーターを搭載する電気自動車の普及等が予想されます。またスマートシティ構想を支えるセンシング技術および情報処理技術の発展が必要であり、高性能デバイスの普及が一層進むと見込まれています。これらの実現を支える、様々なレアメタル資源の需要が増大し、資源供給が今後ますます重要になってきます。
 このような背景の下、本実践では、仮想将来世代の仕組みを導入し、大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻界面制御工学領域のメンバー(教員、学生)参加のもとで、未来社会におけるレアメタルの需要供給問題の検討と、そこに向けた研究課題テーマを検討するための議論(ワークショップ)を実施し、今後必要となる研究開発や技術課題を検討しました。この実践においては、将来世代の視点から検討をすることによって、レアメタル需要供給に関する新たな研究開発戦略と技術イノベーションの方向性がデザインできる可能性が示されました。

参考文献

  • Hara K, Arai T, Liao Z, Ifuku N, Suzuki M, Designing Research and Development Strategies for Sustainable Supply Systems of Rare Metals from the Perspective of“Imaginary Future Generations”– A Participatory Deliberation Experiment, Journal of Cleaner Production, 486, 144445, 2025
    https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2024.144445
  • 大阪大学研究シーズ集(2026)

━━ Case:06

CO2資源化技術の研究開発方針の検討と評価

大学・大学院/2025年度

 気候変動問題が深刻化する中、地球温暖化対策の一環として「CO2資源化技術」が注目されています。CO2資源化技術とは、これまで大気中に排出され温暖化の一因となっていたCO₂を回収・再利用し、最終的にCO₂から別の資源へと変換することを目指す技術です。この技術は大気中のCO2を削減し、カーボンニュートラルにも貢献することから国際的にも注目されており、研究開発が進んでいます。
 一方で、これら有望な研究や技術が社会実装されるまでの道のりには課題も存在しており、CO2資源化技術が社会実装された未来社会やその社会における技術ニーズ、社会実装の課題を具体的に理解し、今後の研究開発の方向性を検討することが求められています。これらの観点を検討あるいは評価するためには将来世代の視点が有効と考えられます。
 以上の背景の下、CO2資源化技術の研究を進める大阪大学院基礎工学研究科の中西研究室とフューチャー・デザインの研究や実践を進める大阪大学院工学研究科の原研究室が連携し「2055年社会を見据えたCO2資源化技術の発展とその実現への研究方針の策定」に関するフューチャー・デザインの実践を行いました。CO2資源化技術の関連研究に携わる学部生・大学院生が参加し、2055年社会のあり様や、その社会でのCO2資源化技術のニーズや社会実装上の課題を、仮想将来世代の視点で検討し、今後取り組むべき研究開発テーマを検討しました。
 本実践では、過去数十年にわたるCO2資源化技術の研究開発に関するデータベースを元に、過去のイノベーションの動向を社会経済的状況との関係で分析し、フューチャー・デザインに活用した点も特徴です。

参考文献

  • Kenichiro Takenaga, Hiro Tabata, Shuji Nakanishi, Keishiro Hara (2025) Retrospective Analysis and its Application to Future Design for Research and Development - A Case Study of CO2 Resource Utilization Technologies, Proceedings of EcoDesign 2025