ロゴ大阪大学大学院工学研究科テクノアリーナ最先端研究拠点部門

フューチャー・デザイン革新拠点

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  成果等  実践実例
実践実例
Future Design Practices

 本サイトでは、自治体や政府、産業界や高等教育(大学・大学院、高校等)におけるフューチャー・デザインによるビジョンづくりや意思決定の実践事例を紹介します。当研究チームは、フューチャー・デザインの初の社会実践(岩手県矢巾町との連携により2015年度に実施)をはじめ、フューチャー・デザインの実践および関連研究を先導的に進めてきました。
 本サイトでは特に、現世代と将来世代の双方の利益や幸福を考慮した、持続可能な意思決定を実現するための有効な仕組みと考えられている「仮想将来世代」を導入した、代表的な事例を紹介します(議論テーマ、実施の主体、参考文献を記載しています)。なお、以下の事例には、研究拠点設置前に研究メンバーが携わった実践事例や、他大学や研究機関と共に実施した事例も含みます。

公共政策・参加型意思決定に関する事例

━━ Case:01

地方創成プラン・まちづくり

岩手県矢巾町/2015年度

 本事例は、フューチャー・デザインの方法を初めて社会的な意思決定に応用した実践例です。フューチャー・デザインの構想と研究を進めていた大阪大学環境イノベーションデザインセンター(当時)と矢巾町との共同研究協定の下、JST戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)プロジェクト企画調査(代表:原圭史郎)のサポートも得て実施されました。
 本実践では、参加町民が、2060年の代表者である「仮想将来世代」グループと、「現世代」グループとに分かれ、最初は別個に地方創生プランの施策を検討し、最後に両世代グループがペアとなって合意形成・交渉を行いました。この実践からは仮想将来世代の意思決定の基準や社会変革のインセンティブは、現世代グループとは異なること等が明らかにりました。本事例は、「仮想将来世代」の仕組み導入が、人々の意思決定や社会的合意形成に有する効果を初めて明らかにした実践でもあり、国内のメディアはもとより、BBCやWashington Post 誌などの海外紙の記事にも取り上げられています。また、その後のフューチャー・デザイン実践を経て矢巾町では、政策立案におけるフューチャー・デザインを実践する「未来戦略課」が設置されるに至っており、将来世代視点からの行政・政策立案のアセスメントなど、新たな取り組みも始まっています。
 矢巾町においてフューチャー・デザインが導入されるに至った経緯や、今後の町の展望についてはこちらの資料からも御覧になれます。

参考文献

━━ Case:02

公共施設管理・町営住宅のプラン

岩手県矢巾町/2017年度

 本実践では、参加者全員が、現世代および仮想将来世代の両方の立場・視点を経験し、その後に最終的な意思決定を行うことにより、長期的な意思決定を実現する方法が採用されました。現在の多くのフューチャー・デザインでも、この手法が応用されています。具体的には、1回目は全員が現世代の視点から公共施設管理・町営住宅のプランに関する施策を検討し意思決定、2回目は仮想将来世代として同じ内容を検討し意思決定、3回目はどちらの視点でも良いが意思決定の理由と将来世代へのアドバイスを明示して最終的な意思決定する、という3ステップの方法です。この実践からは、参加者の多くが、現世代および仮想将来世代の双方の視点を共有する上位視点が形成されていること(視点共有)が明らかになっています。
 矢巾町では2015年度、2017年度のフューチャー・デザインの実践経験を経て、2019年度には町の主要な行政計画である「総合計画」の策定に住民参加によるフューチャー・デザインが応用されました。

参考文献

  • Hara K, Kitakaji Y, Sugino H, Yoshioka R, Takeda H, Hizen Y and Saijo T, Effects of Experiencing the Role of Imaginary Future Generations in Decision-Making - a Case Study of Participatory Deliberation in a Japanese Town, Sustainability Science, 16(3), 1001-1016, 2021
    https://doi.org/10.1007/s11625-021-00918-x
  • 上記論文の要約(RIETI)(「仮想将来世代」の視点獲得による意思決定における効果の検証 -日本の自治体における討議実践のケーススタディ」)
  • BBCの記事(記事内で本事例が引用)

━━ Case:03

再生可能エネルギーの導入ビジョン

大阪府吹田市環境部/2016-2017年度

 吹田市では市民参加の下、2050年のビジョンづくりと再生可能エネルギー導入についてのフューチャー・デザインが実施されました。この実践では、フューチャー・デザインの中心的方法である仮想将来世代とバックキャスティングの手法を組み合わせた新たな方法論が応用されました。本手法を用いた議論や意思決定の結果、吹田市における再生可能エネルギーの普及に関わる4つの未来社会ビジョンが描写されました。また、描かれた社会像に応じてCO2排出量の定量計算ができる仕組みも導入されました。

参考文献

━━ Case:04

働き方改革・業務改善施策の検討

経済産業省/2019年度

 経済産業省の業務改革を検討する若手職員による、働き方改革や業務改善をテーマとしたフューチャー・デザインの実践が行われました。現在の政策課題や、過去に実施された政策の評価分析なども踏まえて、現世代および仮想将来世代の双方の視点でこれから取るべき施策について検討が行われました。

参考文献

━━ Case:05

環境基本計画の政策検討

大阪府吹田市環境部/2019年度

 本実践では、市の第3次環境基本計画策定の議論にフューチャー・デザインが応用されました。公募で選ばれた市民と市役所職員が6グループを形成し4回にわたる議論を行いました。現世代の視点および仮想将来世代の視点によって「2050年時点の吹田市の社会像」と「今後採用すべき政策オプション」が検討され、グループごとに最終的な施策案の意思決定や政策評価が行われました。この実践で提起されたアイデアや考え方および評価結果は、市の計画策定においても参照されています。
 また、本実践から得られたデータからは、仮想将来世代の仕組みを導入することによって、個人特性としてのCritical thinking(批判的思考)の強弱に依らず、「将来への危機意識」「社会目標の共有意識」「現世代の責任意識」などの認知が高まる可能性も示唆されました。

参考文献

━━ Case:06

2050年カーボンニュートラルに向けた政策デザイン

京都市/2019年度

 本実践では、2050年の京都市カーボンニュートラルを目標として、公募で選ばれた市職員25名がチームとなって5回にわたる政策デザインのためのフューチャー・デザインを実施しました。市職員が仮想将来世代の立場から、2050年のカーボンニュートラルを実現した京都市の社会像および2030年までに実施すべき施策を提案し選択しました。実践の結果、仮想将来世代の視点で考察した場合は、社会変革につながる具体的な施策が広く提起されるとともに、参加した職員にも認知変化が見られました。例えば、京都市らしさの再評価や、社会全体にとって望ましいと思われる目標共有の意識の高まりが見られました。
 なお、この実践では、2050年社会像を構成する様々な要素や施策間の関係性をシステム的に理解するために「因果ループ図」が使用されました。なお、本実践を通じて描かれた2050年社会像の一部は、行政計画の中にも反映されています。

参考文献

━━ Case:07

水道インフラの持続可能な維持管理の計画

大阪府吹田市水道部/2022年度

 上下水道を含む社会インフラの持続可能な維持管理は、国や自治体にとって重要かつ喫緊の課題となっています。吹田市水道部では職員の参加の下で、2050年の市水道のあり様を描き、次期ビジョンに向けた検討課題の抽出と取組の方向性を検討するフューチャー・デザインに取り組みました。特に、2050年ごろの市水道のあるべき姿や、これから求められる施策を将来世代の視点からデザインしました。本実践では、仮想将来世代の仕組みを導入することで、危機意識や迅速な対応の必要性についての認識が増大し、政策の優先順位や施策の方向性も変化することが示されました。これらの結果も踏まえて、本研究拠点では、自治体等との連携の下、フューチャー・デザインを導入することによって持続可能なインフラの維持管理を評価するためのアセスメント手法の開拓も進めています。
 なお、本実践とは別個に、2022年度に吹田市水道部と大阪大学大学院工学研究科 原研究室との共同研究として、市内2000世帯(無作為抽出)へのアンケート調査を実施し、市民の意識調査を行いました。特に水道インフラの課題や対策の優先順位に関するに認識について、現在の視点から検討した場合と、仮想将来世代として検討した場合とで比較検証を行いました。その結果、仮想将来世代の視点で考察する場合、水道料金の値上げや水道事業の広域連携などに対する住民の認識が変化することも分かりました。将来世代の視点から考察することで、持続可能性(サステイナビリティ)がより認識されるようになったと示唆されます。

参考文献

  • 池長大賀,渕上ゆかり,黒田真史,原圭史郎(2022)水道インフラの維持管理問題における仮想将来世代導入の効果検証 - 吹田市での大規模アンケート調査, エコデザイン・プロダクツ&サービスシンポジウム2022
  • 吹田市水道部ホームページでの紹介

━━ Case:08

再エネ技術普及のシナリオ評価とカーボンニュートラル政策のデザイン

吹田市環境部/2022年度

 吹田市環境政策室は、職員参加の下でフューチャー・デザインに基づく2050年のカーボンニュートラル実現のための政策立案の実践(研修)を行いました。現在の市職員の立場と2050年の仮想将来世代の立場のそれぞれで、2050年時点の吹田市の社会ビジョンを描写するとともに、2030年までに実施すべき施策の抽出と選択を行いました。仮想将来世代の立場で選択した施策は、現在の職員の立場で提案した内容とは内容や質に様々な変化が見られるなど、仮想将来世代の仕組み導入の効果が見られました。
 また本実践を実施するにあたっては、再生可能エネルギー技術の普及シナリオ評価の情報も活用しました。まず研究者チームが、電気自動車(EV)や太陽光発電(PV)、V2Hなどの有望な技術が2030年、2050年に吹田市に普及した複数のシナリオを構築し、モデルによるシミュレーションを行うことで、コスト削減や二酸化炭素削減効果などの5つの指標について技術普及効果の評価を行いました。これらの情報や技術普及の未来予測に関する客観的データも踏まえて、カーボンニュートラル政策の検討が行われたことが本フューチャー・デザイン実践の一つの特徴です。

参考文献

  • Iwasaki Y, Kobashi T, Fuchigami Y, Hara K, Future Scenarios and Assessment of Gradual Diffusion of Renewable Energy Technologies towards 2050: Case Study of a Japanese Municipality, SSRN (preprint), 2023
    https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4674824
  • 岩崎豊、渕上ゆかり、原圭史郎(2022)脱炭素社会実現へ向けた政策判断における仮想将来世代導入の効果-吹田市での討議実践, エコデザイン・プロダクツ&サービスシンポジウム2022
  • 岩崎豊、小端拓郎、渕上ゆかり、原圭史郎(2022)脱炭素社会へ向けた技術シーズのシナリオ評価-吹田市のケーススタディ、環境科学会年会要旨集
  • カーボンニュートラルを目指す大学等コアリションでのインタビュー記事

━━ Case:09

行政計画(都市計画マスタープラン)のアセスメント

岩手県矢巾町/2023年度

 公共政策分野において、行政計画を持続可能性や長期的観点の観点から評価し、計画の改善につなげる実践は重要課題となっています。フューチャー・デザインを応用し、現行の計画や政策が、将来世代に与える影響をより具体的かつ多角的に評価できる可能性があります。
 矢巾町では、2023年8月から11月にかけて、フューチャー・デザインを応用し、都市計画マスタープランの改定に向けた評価と計画改善の実践を行いました。庁内の9課室から合計21名の職員が参加し、現世代2グループ、仮想将来世代2グループの4グループに分かれて、マスタープランを現世代および仮想将来世代の視点から評価しました。最初の3回で4グループが別個に都市計画マスタープランの評価と施策の提案を行い、最後の第4回目に現世代と仮想将来世代の1グループずつがペアを組み合意形成を行って、計画改善に向けた5つの具体的な施策を提案しました。この実践では特に、都市開発と農村地域との格差問題など、現在の視点からの検討では解決が困難なトレードオフ問題を中心的に議論し、現世代と将来世代の双方の視点を取り入れたアセスメントを実行したのが特徴です。
 実践の結果、現世代グループと将来世代グループとの間では、都市計画上の課題の着眼点や課題設定、評価結果や施策案において差異が明確に見られました。特に仮想将来世代は2050年の矢巾町の未来社会像をより具体的に描写し、農村の人手不足の問題の潜在的リスクなど、矢巾町にとって本質的な課題に着目し、現行計画の評価と行う傾向がありました。
 この取り組みは、フューチャー・デザインを行政計画のアセスメントに応用した初めての事例であり、持続可能性の観点から行政計画を評価した新しい手法を提起しています。両世代の視点を取り入れた評価を行うことで、時間軸を明示的に取り込んだ行政計画のアセスメントと政策立案の新しい手法開拓にもつながると考えれます。

━━ Case:10

産学官メンバーによるエネルギー・地球温暖化対策の意見交換

 2023年12月19日に開催された第19回「近畿地域エネルギー・温暖化対策推進会議」では、近畿地域の国の地方支分部局、 域内の地方公共団体、エネルギー関係者、大学・研究機関の関係者等が参加し、2050年カーボンニュートラルをテーマにフューチャー・デザインの考え方を応用した意見交換が行われました。2050年時点の社会状況とともに、ライフスタイルに関連して、個人あるいは組織として10年以内に実現すべき施策を、仮想将来世代の立場から検討しました。仮想将来世代の立場からは、エネルギー・温暖化対策関連の意見だけでなく、「技術の発展に伴う1日3時間労働の実現、余剰時間を使った環境保全活動の実施」など俯瞰的な視点から様々な意見が出されました。
 カーボンニュートラル社会の実現に向けては、多様なステークホルダーが連携し、今後取るべき施策や道筋について合意形成を図る必要があります。フューチャー・デザインによって将来世代の視点を取り込むことにより、多様な主体による議論や合意形成がより促進される可能性があり、関連の研究や実践が始まっています。

参考文献

  • 「近畿地域エネルギー・温暖化対策推進会議事務局」による会議の報告

━━ Case:11

水環境問題に関する施策の検討―ホーチミン市の事例

 2017年2月に、ホーチミン市工科大学において学生および研究者(教員)の47名が参加し、ホーチミン市の水環境問題の現状や将来の問題について検討を行いました。個人に対するアンケート調査の結果、現在の視点から将来を検討した場合と比べて、仮想将来世代として検討した場合には、参加者が重視する観点が、短期的な利益につながる施策から、人間の活動が地球環境問題に及ぼす影響などの長期的課題の解決に資する施策へとシフトする傾向が見られました。また、この事例からは、未来社会像の描き方が、仮想将来世代の導入効果に関係していることも示唆されています。今後は、様々な国や地域におけるフューチャー・デザインの実践も重要になってくると考えられます。

参考文献

  • Kuroda M, Uwasu M, Bui X.T, Nguyen P.D, Hara K, Shifting the Perception of Water Environment Problems by Introducing “Imaginary Future Generations - Evidence from participatory workshop in Ho Chi Minh City, Vietnam, Futures, 126, 102671, 2021
    https://doi.org/10.1016/j.futures.2020.102671

産業界における応用事例

━━ Case:01

研究開発戦略(R&D)への応用

オルガノ株式会社(製造業)/2019-2021年度

 本事例は、産業界の技術イノベーションや研究開発戦略にフューチャー・デザインを応用した初めての事例です。既存の技術シーズをマーケットに上市するだけではなく、将来世代の視点から研究開発戦略を検討することによって、新たなイノベーションの方向性をデザインすることが可能となります。本実践では、水エンジニアリング会社であるオルガノ株式会社の研究開発センターを中心とした社員が、仮想将来世代の視点から研究開発戦略の方向性を検討しました。現在の視点から将来を考察して意思決定する場合と比較して、仮想将来世代の視点から考察することによって、R&Dを検討する際の判断基準が変化し、研究開発シーズと新たなイノベーションの方向性の探索が可能となることが示唆されています。

参考文献

  • Hara K, Kuroda M, Nomaguchi Y, How Does Research and Development (R&D) Strategy Shift by Adopting Imaginary Future Generations? - Insights from Future Design Practice in a Water Engineering Company, Futures, 152, 103221, 2023
    https://doi.org/10.1016/j.futures.2023.103221
  • Hara K, Fuchigami Y, Nomaguchi Y, Kurashiki T, Eguchi M (2023) Evaluation Criteria for R&D adopting “Imaginary Future Generations”— a Deliberation Experiment in an Engineering Company, available at SSRN
    http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4445344
  • Gaper E, Hara K (2023) Lasting Effects of Future Design Practices and their Potential Application in the US Building Industry, available at SSRN
    http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4656103
  • 新聞記事での紹介

━━ Case:02

技術イノベーションと事業戦略への応用

帝国イオン株式会社(製造業)/2020年度-

 フューチャー・デザインは、技術開発や事業継承の検討に対しても応用が進められています。本フューチャー・デザインでは、オンリーワンのめっき技術を持つ会社である帝国イオンの社員が仮想将来世代の視点から、会社の有する有望な特定技術の開発方針や事業方針、そして事業継承のあり方についても議論を行いました。仮想将来世代の視点から社員が提案した施策を多角的に評価する手法も取り入れることで、今後の技術シーズの応用展開の方針や事業戦略をデザインしました。また、このフューチャー・デザイン実践からは、参加した社員による、会社および会社の持つ技術の可能性に対する認識にも変化が生まれ、その変化が実践後も継続していることも確認されています。

参考文献

  • 藤田健, 棚原渉, 倉敷哲生, 原圭史郎, 池田順治, 中村孝司, フューチャー・デザインに基づく持続可能な事業提案ワークショップの実践とその効果に関する研究, JCOSSAR 2023論文集 , 301-307, 2023
    https://doi.org/10.60316/jcossar.10.0_301
  • Fujita K, Kurashiki T, Hara K, Ikeda J, Nakamura T, Analysis of the Effects of Adopting "Imaginary Future Generations" on the Design of Technology Development and Business Proposal - Case Study of Workshop at a Plating Processing Company, Proceedings of EcoDesign 2023, 955-962, 2023
  • 新聞記事での紹介

━━ Case:03

企業の新規事業提案への応用

メーカー/2020年度

 長期的視点からの企業における事業提案や経営戦略の検討は、持続可能な経営や社会貢献という観点からも重要です。昨今、企業の新規事業提案において、フューチャー・デザインを導入することでどのような効果が得られるか、という検証も進められています。本実践では、2040年の食に関する新規事業提案をテーマに、企業関係者による議論・意思決定の場にフューチャー・デザインを導入し、効果を検証しています。仮想将来世代の視点からの討議や意思決定では、現在の視点から検討した場合と比べて、顧客・キーパートナーをより重視するなど事業提案におけるステークホルダーの範囲の拡大が見られました。また、仮想将来世代の視点からの提案は、企業内の意思決定者にも評価されうることも分かりました。

参考文献

  • 細見知広, 近藤元貴, 若本和仁, 原圭史郎, 倉敷哲生, 企業における新規事業提案に対するフューチャー・デザインの効果検証―将来世代の視点による事業提案とその評価, 研究 技術 計画 ,38(1), 113-129, 2023
    https://doi.org/10.20801/jsrpim.38.1_113

高等教育、研究開発等への応用事例

━━ Case:01

企業5社と大学生による2050年社会の課題とニーズの探索

2022年度

 国内の異業種大手企業5社の社員と大阪大学の学生(学部生、大学院生)が一緒になって議論し、グローバルリスクに対するレジリエンスおよびウェルビーイングや健康の維持が達成されている2050年社会のあり様や課題、ニーズを探索することを目的としたフューチャー・デザインを実施しました。本実践は、異業種企業および学生が共に未来社会の問題をフューチャー・デザインで検討した初のケースとなります。議論の結果から、仮想将来世代の視点で考察することで、現在の視点からの検討だけでは探索できなかった新たな課題・ニーズの発掘が可能であることが分かりました。これらの検討結果は、今後の研究開発戦略へのヒントとなるものです。
 また、本実践ではシステム思考のツールである「因果ループ図」を活用して、課題群の因果関係を俯瞰的に整理し本質的課題の抽出を行いました。本事例からは、将来世代に共感をもった思考や意思決定につながるフューチャー・デザインとシステム思考(因果ループ図)の効果を両立させることが可能であることも示唆されており、未来社会の問題を議論し意思決定するための方法論や手法の開拓にもつながる示唆が得られました。

参考文献

  • Hara K, Fuchigami Y, Arai T, Nomaguchi Y (2023) Compatible Effects of Adopting Imaginary Future Generations and Systems Thinking in Exploring Future Challenges - Evidence from a Deliberation Experiment, Available at SSRN
    http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4445215

━━ Case:02

学部・大学院でのフューチャー・デザインに関する 教育プログラム

 大阪大学では、フューチャー・デザインの構想に携わるメンバーらが中心となって、2012年度の講義内で、電源構成やエネルギー技術の問題をテーマに、仮想将来世代の考え方を導入した初めての演習(議論)を実施しました。その後、フューチャー・デザインの研究も進み、2021年度からは、大阪大学大学院工学研究科において正規の講義「フューチャー・デザイン」(15コマ2単位)が開講されています。また、大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムにおいても2019年度より「フューチャー・デザイン」の講義(8コマ1単位)が開講されており、長期課題やサステイナビリティ問題の構造、持続可能な意思決定の考え方や理論、実践演習に至るまでフューチャー・デザインを体系的に学ぶプログラムを提供しています。例えば、23年度の超域イノベーション博士課程プログラムでは、様々な研究科から本プログラムに参加している大学院生が、2050年を見据えた林業・森林管理のあり方について仮想将来世代の視点から検討しました(下記写真)。
 また、大阪大学、東京大学、京都大学、茨城大学、国連大学の5大学の連携の下で開講している英語の集中講義「Frontiers of Sustainability Science」では、5大学をオンラインでつなぎ、留学生も一緒にフューチャー・デザインの考え方を活用した演習を行っています。例えば2022年度、2023年度は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けたフューチャー・デザインのグループ演習を行い、仮想将来世代の視点から、課題や施策を検討することの意義を学びました。

参考文献

  • 超域博士プログラムの履修生による2019年度実施の講義「フューチャー・デザイン」の受講感想レポートはこちら
  • Uwasu, M., Kishita, Y., Hara, K., Shen, J., Kuroda, M., Takeda, H and Saijo, T (2015) Future design - How to create future generations in visioning? , Proceedings of EcoDesign 2015, pp. 67-71

━━ Case:03

高校の授業でのフューチャー・デザインの活用

 どのような社会をこれから構築していくべきなのか? 持続可能な社会を導くためにはこれから何が求められるのか? このような問いについて皆で議論し、合意形成を図る力やリタラシーの涵養は大変重要になってきています。そして、これらの力を養うためには、早い段階から、未来社会のことを考える機会が必要だと考えられます。既存研究および実践から、フューチャー・デザインの実践は、人材育成や教育の側面でも効果があることが示されつつあります。特に新たな視点を獲得し、持続可能な意思決定や判断力を育てるうえでも効果が示唆されています。このことから、高校の授業や課外活動においても、防災や高校の未来のあり方など多様なテーマを取り上げ、フューチャー・デザインを活用した議論の機会が生まれています。
 例えば、2018年8月には、徳島県阿南市の高校生・高専生ら52名が集まって、防災の問題をテーマとしたフューチャー・デザインの議論が行われました。また、大阪大学キャンパスでも高校生が集まってフューチャー・デザインで社会課題を議論する場が設けられています(下記写真)。大阪大学等の研究者らも支援する中で、このような高校の授業や課外活動の一環として様々な社会課題を将来世代の視点で考察する機会が生まれています。
(高校での実施例:岩手県不来方高校、大阪府立池田高校、大阪府立泉大津高校、徳島県富岡西高校ほか)

参考文献

  • 立山侑佐,倉澤健太,平山政義,倉敷哲生,原圭史郎,フューチャー・デザインを活用した防災ワークショップの時間的指向性による検証,工学教育 , 67 (3), 14-20, 2019
    https://doi.org/10.4307/jsee.67.3_14
  • 不来方高校のブログ

━━ Case:04

学術研究・技術開発テーマのデザイン‐材料分野の技術シーズを例に

 フューチャー・デザインの既往研究からは、「仮想将来世代」の仕組みを導入することによって、長期的観点あるいは持続可能性の視点から、学術研究や技術イノベーションの新たな方向付けが可能となることが示唆されてきました。本課題に取り組むため、大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻界面制御工学領域のメンバー(教員、学生)が、同工学研究科原研究室と連携し、「水熱技術の社会実装(2019年、2020年)をテーマにフューチャー・デザインの実践に取り組みました。その結果、仮想将来世代の視点で描写する社会状況に応じて、対象とする技術の相対的な価値や社会実装の条件が変化することが分かりました。その結果として、技術イノベーションの新たな方向性を定義することが可能となることも分かりました。

参考文献

  • Hara K, Miura I, Suzuki M, Tanaka T, Designing Research Strategy and Technology Innovation for Sustainability by Adopting “Imaginary Future Generations”—A Case Study Using Metallurgy, Futures and Foresight Science, 5(3-4), e163, 2023
    https://doi.org/10.1002/ffo2.163
  • Hara K, Miura I, Suzuki M and Tanaka T (2023) Assessing Future Potentiality of Technology Seeds from the Perspective of “Imaginary Future Generations” – a Case Study of Hydrothermal Technology, Technological Forecasting and Social Change202, 123289, 2024
    https://doi.org/10.1016/j.techfore.2024.123289

━━ Case:05

持続可能な未来社会を支えるレアメタル供給システムの検討

 カーボンニュートラル社会、持続可能な資源利用やサーキュラーエコノミーの実現は、国際的にも重要かつ喫緊の課題となっています。これらの社会目標に向けて、これから太陽光発電などの再生可能エネルギーや風力発電などの自然エネルギーを生み出すためのインフラストラクチャー、リチウムイオン電池に代表される大容量二次電池、高出力モーターを搭載する電気自動車の普及等が予想されます。またスマートシティ構想を支えるセンシング技術および情報処理技術の発展が必要であり、高性能デバイスの普及が一層進むと見込まれています。これらの実現を支える、様々なレアメタル資源の需要が増大し、資源供給が今後ますます重要になってきます。
 このような背景の下、本実践では、仮想将来世代の仕組みを導入し、大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻界面制御工学領域のメンバー(教員、学生)参加のもとで、未来社会におけるレアメタルの需要供給問題の検討と、そこに向けた研究課題テーマを検討するための議論(ワークショップ)を実施し、今後必要となる研究開発や技術課題を検討しました。この実践においては、将来世代の視点から検討をすることによって、レアメタル需要供給に関する新たな研究開発戦略と技術イノベーションの方向性がデザインできる可能性が示されました。

参考文献

  • Hara K, Arai T, Liao Z, Ifuku N, Suzuki M (2023) Designing Research and Development Strategies for Sustainable Supply Systems of Rare Metals from the Perspective of “Imaginary Future Generations”– A Participatory Deliberation Experiment, available at SSRN(preprint)
    http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4656146